薔薇 倶楽部 本文へジャンプ


小学校が終わると、僕は駆け足でアパートに戻った。植木鉢の下に置いていた鍵を取りだしギィーっときしむ戸を開けた。急いで部屋に入り秘密の場所に隠していた貯金箱を手にとった。底のゴム蓋を外して中身を取り出す。母ちゃんと二人だけのアパート暮らしで、そもそもお金がある筈はなかった。小銭を数えたら丁度800円が貯まっていた。僕は、それをポケットに押し込んで、駅前の大きな花屋さんに向かった。白いガラス戸を、勇気を出して開けると、何とも言えない良い花の香りがしたんだ。暫くするとお店のおばちゃんが、僕の前にしゃがみこんで
「僕、お花が欲しいの?」と、聞いてきた。僕はすぐさま頷き
「母ちゃんが入院しているんだ。花束が欲しいんだよ」と答えた。すると…
「そぉ〜 でも花束にすると高くなるけれど、お金は持っているの?」
 そのおばちゃんの言葉に、僕はポケットから自慢げに800円を取りだし差し出すと、おばちゃんは何度も頷いて花束を作ってくれたんだ。店に入ってきた時に凄く良い香りがしたその花だった。おばちゃんは、これが ”薔薇” という花なのよ。きっとお母ちゃんの病気は治るからねと言ってくれた。手渡された薔薇は、みんなが振り返るように綺麗で大きな花束だった。そのおばちゃんは、僕の手のひらの上にある800円から100円玉1枚だけを手にとり、後は、そのまま僕の手を両手で閉じたんだ。その理由など如何でも良かった。おばちゃんの手のぬくもりを感じた僕は、頭を何度も下げて店を出たんだ。それから病院まで駆け足で走ったよ。でも、母ちゃんはその夜、死んでしまった。目を閉じた母ちゃんがいる部屋には、その薔薇の香りだけが漂っていた。
それから25年の月日が流れた。頼れる身寄りもなく、一人施設に入り、我武者羅に勉強をして就職した。故郷を離れていたのだが、出張を利用して故郷へ帰り墓参りに立ち寄った。駅を降りて懐かしい風景を見つめていたら、あの花屋さんが目にとまったんだ。僕はフラフラと吸い寄せられるようにお店の戸を開けた。すると、遠い昔に記憶していたあの香りが又、蘇ってきたのだった。
「いらっしゃいませ!」その声に呼びこまれるように私は店内に入った。
 そこには、無数の花が冷蔵庫だろうか? 涼しそうな大きなショーケースの中に飾られていた。その時の薔薇の色や形は覚えていなかったが、この香りだけは覚えていたんだ。
「あの〜 薔薇の花束が欲しいのですが…それから、25年前にこのお店にいたおばちゃんはいますか?」僕は、当時の事情を話した。すると---
「それだったら私の、母です。残念ながら昨年、病気で他界致しました」その女性はそう言った。 その時、聞いた話によると当時、この女性の兄にあたる病気の子供がいてずっと入院をしていたそうだ。手際良く作られる薔薇の花束を見つめていると、母の面影が走馬灯のように駆け巡った。
花束が出来上がり、支払いを済ませると僕は聞いた。
「あの〜 その時のお兄さんは、お元気なんですか?」
 すると女性は顔を小刻みに振った。




                記憶の片隅にある、あの香りとともに…
                   goodbook 園芸部
             薔薇 倶楽部


 残念ながらご紹介はここまでです。

何を作っているのか? 何を販売するのか?
今年は、ご紹介するだけなのか? 全てはこれからの発育状態のようです。
その時が来るまで、どうぞお待ち下さい。